<私>の日本語教育 No.003「外国人も日本人の日本語を評価している!?」栁田直美
- 研究・実践
- 2022年3月8日
- 広報委員会
氏名
栁田 直美(一橋大学 森有礼高等教育国際流動化機構 国際教育交流センター)
キーワード
接触場面、接触経験、非母語話者の評価、やさしい日本語
研究・実践の概要
現在日本に住む外国人は約300万人で、増加傾向にあります。日本語を母語としない外国人(以下「非母語話者」)の増加を受け、全国各地の自治体は非母語話者にもわかりやすく情報を提供する必要に迫られています。日本語が得意でない人々にもわかるように調整された日本語を「やさしい日本語」といいます。市役所などでの窓口対応は日本に住む非母語話者のほとんどが経験することの一つですが、そこでも今、「やさしい日本語」が求められています。
窓口で行われるのは〈説明〉という相互行為です。では、非母語話者は母語話者の〈説明〉をどのように受け取り、評価しているのでしょうか。私たちはふだん、非母語話者から自分の話し方を評価されているとは思っていないかもしれません。しかし、「やさしい日本語」のような取り組みには、情報の受け手である非母語話者の視点を反映させていくことが重要です。そこで、栁田(2020)では、「1.積極的な参加態度」、「2.落ち着いた態度」、「3.相手に合わせた適切な説明」「4.言葉に関する具体的な説明」、「5.非母語話者向けの説明」の5つの評価基準(計38項目)を用いて非母語話者に母語話者の〈説明〉に点数と順位をつけてもらい、それらの評価に影響を与える具体的な言語行動を明らかにすることにしました。
〈説明〉のデータは、非母語話者との接触経験の少ない母語話者2名(男性・女性)、日本語教師経験者2名(男性・女性)の計4名が非母語話者に対して、単語・文・文章を説明したものです。評価を行ったのは60名の非母語話者で、母語は中国語、韓国語、ロシア語、タイ語、ドイツ語、ポルトガル語、ベトナム語、日本語レベルは上級と中級が約半数ずつでした。
研究/実践の特徴・成果
非母語話者が5つの評価基準(計38項目)につけた点数と順位の関係を分析した結果、「1.積極的な参加態度」、「2.落ち着いた態度」、「3.相手に合わせた適切な説明」が、母語話者の〈説明〉に対する評価により強く関連していることがわかりました。このことから、非母語話者は、言葉や文法をやさしくすることよりも、母語話者が会話に積極的にかかわっているか、相手に合わせて会話しているかどうかを重視しているといえるでしょう。
さらに、どのような言語行動が高く評価され、反対にどのような言語行動が低く評価されるのかについて、非母語話者からの評価が最も高かった母語話者と最も低かった母語話者の談話を分析しました。その結果、非母語話者からの評価が最も高かったのは日本語教師経験者(女性)、最も低かったのは日本語教師経験者(男性)で、両者の得点の差が大きかったのは「1.積極的な参加態度」と「3.相手に合わせた適切な説明」でした。この2点について具体的な言語行動を観察したところ、日本語教師経験者(女性)は、説明にかける発話量の多さや協調的な雰囲気づくりなどの会話への積極的なかかわりと、非母語話者の「わからない」というサインを見逃さずに何度も説明するなどの相手の理解度に配慮する行為が高く評価されていました。一方、日本語教師経験者(男性)は、説明するときの言葉や文法は簡単ではあるものの、発話量が少ないなど会話に対する消極的な態度や、非母語話者にわからないところを言わせる、語の意味を説明させるといった、いわゆる「先生らしい」ふるまいなど、相手と自分との立場の違いを強く示すような態度が低く評価されていました。
非母語話者と話すときは言語的な調整ももちろん重要です。しかし、この研究の結果からいえることは、母語話者どうしであっても非母語話者と母語話者であっても、会話参加者がお互いを尊重して相互理解を図らなければ、コミュニケーションは成立しないということでしょう。
- ※詳しくは、栁田直美(2020)「非母語話者は母語話者の〈説明〉をどのように評価するか評価に影響を与える観点と言語行動の分析―」『日本語教育』177、pp.17-30 をご覧ください
受賞歴
- 2020年度 日本語教育学会 奨励賞
- 2020年度『日本語教育』論文賞
- 第6回日本語教育学会林大記念論文賞
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