<私>の日本語教育 No.002「ICTが開く、新たな学びの可能性」藤本かおる
- 研究・実践
- 2022年3月8日
- 広報委員会
氏名
藤本かおる(武蔵野大学グローバル学部日本語コミュニケーション学科)
キーワード
ICT利用教育、遠隔教育、ハイフレックスモデル
研究・実践の概要
2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID 19、以下コロナ禍)により、世界中の教育機関で授業のオンライン化が迫られました。日本語教育も同様でしたが、オンライン授業を全く新しい教育方法と受け止めた人も少なくありませんでしたし、一部ではオンラインでの授業は対面授業より劣っている→オンライン授業はダメだ!→だから一刻も早く対面授業に戻さねば!という否定的な意見が大きくなりました。
しかし、遠隔教育、いわゆる通信教育では、コロナ禍で爆発的に利用が広がったzoomなどの同期型システムの利用はかなり以前からありましたし、日本語教育においては今とは少しシステムは違いますが、早くは1980年代中期、そして1990年代には海外との交流授業などで取り入れられていました。ICTの教育への利用は、要は目的とどのように取り入れるかということが重要だと考えます。私自身のこれまでの実践としては、自分が担当する授業で反転授業などICTを使った実践的研究や、同期型システムを使った双方向のオンライン授業を2007年ごろから海外の学生向けに行ってきました。
また、日本語教師を対象としたICT活用の知識やスキルの教育・研修も担当しています。教師が教師たるためには、いわゆる教師養成課程での学びだけではなく、自分が生徒学生だった時の経験も大きいと言われています。現役の先生方のほとんどは、自分が生徒学生だった時にICT を利用して学んだ経験がある先生は、まだあまり多くないと思います。そのため、授業の組み立てから悩みますし、自分の実践についてこれまでの経験から判断することができず、戸惑いやストレスを感じることがあるのだと思います。
研究/実践の特徴・成果
現在はVUCAの時代と言われていて、VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった造語です。現代はとても変化が激しく不確実で、その上複雑で曖昧になっているということです。拙著『ICT活用入門』に書きましたが、変化の激しい時代なのに教室というのはかなり長い間その仕様を変えていません。前方に先生がいて学生は前方を向いて先生の話を聞くというスタイルです。 しかし、ネットの発達により、教科書に載っていることやそれ以上のことが検索で簡単に探すことができるようになりました。そして、日本などでは少子化により、いわゆる学業年齢の子供が減ってフルタイムで学べる人の数が減って来ています。その上、今回のような世界規模の自然災害が温暖化の影響で起こりやすくなっていると言われており、これまで通りの「学校」のあり方にこだわっていると、どんどん受け入れられる学生が減っていく可能性があります。そこで、現在ハイフレックスモデルに注目しています。
ハイフレックスモデルとは、1つの授業で対面、同期型オンライン(リアルタイム配信)、非同期型オンライン(録画配信)など複数の形態が提供され、学ぶ側が自分に合うものを選択できる学び方です。日本語教育で考えると、ハイフレックスモデルによる効果的な教育が可能になれば、日本語を学びたくても、事情があって日本に留学はできない、また日本国内に住んでいても日本語学校に通えないという人たちなどが、日本語を学びたくても、事情があって日本に留学はできない、また日本国内に住んでいても日本語学校に通えないという人たちなどが、自宅から色々な場所の日本語教育の場で学ぶことができ、教育の機会が広がります。
また、学生が自由に参加形態を選べるので、普段はオンラインで学んでいる学生が休暇を利用して1カ月間だけ日本に来日し対面で授業を受ける、といった柔軟な学び方も可能です。しかし、そう行った柔軟性の高い学びを実現するためには、現場の教師だけでなく、学校運営側にも専門的な知識やスキル、将来的なビジョンが必要です。そのため、コロナ禍での日本語教師の経験を調査、共有し、効果的なハイフレックスモデルのあり方を明らかにするとともに、学校運営側にも働きかけるような知見を提供する研究を行なっていきたいと思っています。
受賞歴
- 日本語教育学会 奨励賞
- 日本e-Learning学会2010年学術講演会学会優秀賞
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